『エーゲ海のねこ シエスタの町から』エピソード・21

秋の一枚。
10月に入ると、バカンスを楽しんだ客は去ってゆく。
夏の間は人々でごった返していた店や宿も、日を追うごとに閉まってゆく。
シエスタの町が本来の静けさを取り戻す季節だ。
夏の間、嫌というほど照りつけたお陽さまも幾分おとなしくなり、エーゲ海からは一層爽やかな風が通り抜けてゆく。
聞こえてくるのはさざ波のちゃぷちゃぷという音と、カモメの鳴き声くらい。
静かで穏やかな、それらしい昼下がりだ。
そんなある日の、小さな町の港沿いのタヴェルナ。
広い広いオープンテラスの店に、客はたった一組の夫婦だけ。
料理を運び終えたウエイターは、食事の様子を手持ち無沙汰そうに見守っている。
そこへ、何処からともなく二匹のネコがやってきた。
お目当てはもちろん、美味しそうな焼き魚のお裾分け。
テーブルの下に陣取り、静かに待っている。
…と、突然一匹が立ち上がり、料理に手を伸ばした。
意外かもしれないけれど、こんな光景はそう多くはない。
大抵はおとなしく座って待っているものなのだけれど、余程お腹が空いていたらしい。
バカンス客が減って、食べ物にありつくのが難しくなったのだろうか。
追い払ったところで、それは無駄だろう。
なにしろ、ここで食事をしているのは、この夫婦以外にはいないのだから。
困り顔をしながらも、取り分けては投げ、取り分けては投げ...
ネコたちはそれを、拾っては食べ、拾っては食べ...
そんなやり取りが黙々と続いた。
やがて、二人がナイフとフォークをテーブルに置くと、ネコたちは何処かへと去って行った。
さざ波とカモメの鳴き声だけの、静かな時間が戻ってきた。
...そこへウエイターが、満面の笑みと共に一声。
「コーヒーかデザートはいかがですか?」
Photo:
過去に二度だけ写真コンテストに応募したことがあって...
これはそのひとつで、特賞をいただいた
審査員は、犬猫写真家・新美敬子さんだった
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ASUHA-明日葉- ファースト・コレクション(写真集)
『エーゲ海のねこ シエスタの町から』
PHP研究所 刊
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